徒然。

備忘録

道真と桜

後撰巻二春中五七
家より、とをき所にまかる時、前栽の桜の花に結ひつけ侍りける    菅原右大臣
さくら花主をわすれぬ物ならば吹き来む風に事づてはせよ

新日本古典文学大系』はこれは大宰府に左遷される際の歌という。道真の大宰府左遷といえば、有名なのは飛梅伝説であろう。

東風吹かばにほひおこせよ梅花主なしとて春を忘るな(『拾遺和歌集』一〇〇六)

昨今では「春な忘れそ」とするものもあるが、大系の拾遺集では「忘るな」である。また知人のお婆さんも「忘るな」と教えてくれたので、こちらで記した。

道真は漢籍に優れ、好文木(梅の別称)を好んだと言われる。そんな彼が流される前に詠んだ歌から、梅が飛んでいったという伝説が残されるのももっともで、私はこの伝説が大好きだった。

先の桜の歌は、だから、とても意外に映った。
流される前に詠んだ歌は、梅だけではなかったということが、驚きだった。
梅ばかりが取り沙汰されるのは、彼が梅を好んだからに他ならないが、桜にも想いを寄せていたのも、覚えておきたかったので、紹介をかねて。